アジア<QBCアジア支局だより>日本のテレビ離れ〜必要以上なラフ・トラックの乱用
日本で加速する「テレビ離れ」の要因として、コンテンツの質の低下が挙げられる。「見たい番組がない」というのは視聴者が持つテレビに対する不満であるが、それでも「何かを付けていないと室内が寂しいから、なんとなく付けている」という「映像受像機」としての機能で、テレビはかろうじて存在意義を保っている。
「お笑い」番組のジャンルで顕著になっているのは、「ラフ・トラック」と「ワイプ」の必要以上の多用である。ラフ・トラック(laugh track)とは、アメリカ・コメディ番組などで見られる「観客の笑い声(の効果音)」である。ラフ・トラックは、「観客が面白いと感じているから笑っているのだ」と、通常の視聴者は知覚するが、時に、制作者は「観客が笑っている笑い声を聞くことで、視聴者が『面白いシーン』だと錯覚する」効果を狙う。
「ワイプ」は、レポーターが現場等にロケに出ている映像が流れている際に、スタジオにいる司会者やタレントが右下の小さい枠の「ワイプ」画面に登場し、頷いたり驚いたり笑ったりする表情を見せるものだ。
「ラフ・トラック」「ワイプ」ともに、使用しなくても番組そのものは成立するが、「面白い番組」「内容のある番組」として演出するため制作上の効果として活用されている。しかし、これらの効果は不必要に使われ過ぎると、視聴者の「違和感」をうむ。
大手民放局で土曜夜にイレギュラー放送されているコントやエンターテインメントを盛り込んだお笑い番組では、特に「(多くの視聴者にとって)面白いと思えない」場面においても、「観客の笑い声」が追加される傾向にある。また、「ワイプ芸人」という新出の単語が物語るように、タレントがワイプで意図的にオーバーにリアクションを取り、かつ、そういったオーバーさ自体が視聴者にも認知されてしまっている。「意図的なオーバーさ」や「わざとらしさ」が露骨になればなるほど視聴者は「違和感」を覚える。
アメリカでは朝の人気ワイドショー「NBC-TODAY」などでも、中継のコーナーで司会者がワイプで登場することはあるものの、内容に対し過剰なリアクションを取ることはほとんどない。
日本ではスポーツ中継でも、「絶対に負けられない戦い」「勝利に向けてのカウントダウンが・・・」などと実況者が美辞麗句を連ねるケースがある。これらも視聴者からは「うるさい」「必要なことだけを言ってくれ」という不満の種となる。「送り手側の(自己)満足」と「視聴者側のニーズ」が乖離すれば、コンテンツに対する支持は得られなくなる。お笑いのケースも含め、日本のテレビ離れの要因としてのコンテンツの質の低下は、「現実のニーズとかけ離れた出演者や制作者の表現」も一因と言えよう。
(取材:亜細亜 渡)
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