アジア「台湾」をより知るために見ておきたい映画(1)「あの頃、君を追いかけた」
「あの頃、君を追いかけた」(原題/那些年,我們一起追的女孩)は、台湾で社会現象にもなった青春映画。この映画は、「電話」の歴史をクローズアップした点も注目される。舞台となっているのは、1994年から2005年の約10年間である。スマートフォンしか知らない若い世代にとっては、公衆電話の順番待ちや、アンテナが付いているケータイの電波を探して、高く上に掲げて歩き回るといった仕草は伝わりにくい。そのような「あの頃」を思い出させる懐かしさも、切なさを助長する。もし、すぐに電話、すぐにLINE、すぐにメールしてしまう現代に、主人公のチアイーとコーチンが生きていたのなら…彼らの恋はまた違った結果になったのであろうか。
男女の恋愛模様を描く王道ストーリー。友人同士だった二人が、どこに線引きがあったのかも分からないうちに惹かれ合っている様子は、切ない気持ちが巧みに描かれている。コメディー調の展開が多いが、登場人物のキャラクターや魅力は感情移入に容易く、見ていて楽しい。恋愛映画というと、恋人が病気で死んだり、三角関係に翻弄されたりと、悲しいストーリーを思い浮かべがちである日本人は、この展開に目新しさを感じる。
恋愛、仕事、人間関係…過去をやり直すことはできない。この映画は、主人公よりも視聴者の方が、「そこは、もっといい方法があっただろう」と思うことが多い。「好きな人の前では、俺は臆病だ」という台詞がある。劇中でも、友人に殴られるシーンがある。随所で、背中を押してあげたくなる主人公男性に、肩入れしたくなる部分だ。
台湾の情景もふんだんに盛り込まれている。台湾の代表的な祭りの「ランタン祭り」もそのシーンの一つ。チアイーとコーチンが大学に入ってデートに行った時の一幕で、天灯(ランタン)に願いを書いて、コーチンが告白をする。台湾では、毎年旧暦1月15日の小正月、新北市平渓(ピンシー)郷で、願いを書いたランタンを挙げるお祭りが開催。ここではお祭りの中で行う風習を、静かな橋の上で、二人だけで行っているのだ。「台湾を知りたい」日本人にとっては、相応しいシーンと言える。映像はエンターテインメント性で溢れていて、切ない筋書きもハッピーエンドに終わる。作品は2011年「台北映画祭」でオーディエンス賞を受賞。主演は、現在、中国大陸の映画界でも大活躍する台湾人女優・陳妍希(チェンエンシー)で、本作で金馬奨(台湾アカデミー賞)の最優秀女優賞にノミネートされた。台湾の若者の青春時代に共感することができる作品である。
【文・構成:アジア支局・亜細亜 渡】 |