学ぶ高齢者が高齢者に席を譲るバスの中
ある日のバスの中、その日は平日の昼間だというのに前方の座席は満席だった。 バス停に止まったバスに、杖をついて腰をかがめた白髪のおばあちゃんが乗車口から乗り込み、ゆっくりとステップを登った。 バックミラーごしにそれを見ていた運転手は、すかさず「どなたか席をお譲りください」とマイクに叫ぶ。 普段であれば、席に座っている人が「座っている自分と乗り込んできた人との年齢差や体の頑強さ」を自ら判断し、席を譲るだろう。 この日はたまたまバスの前方の席に座っているのは高齢者ばかり、若者はいない様子だ。 そのためか、「同年代の人に果たして自分が席を譲ってもいいのか。譲ろうと声をかけた人に失礼ではないだろうか」とのためらいからか、席を譲ろうとする判断がすこし遅れる。 それから、声をかけて立ち上がるまでに数秒。 結局、このおばあちゃんは、ほぼ同年代の背筋のしゃんとしたおじいちゃんに席を譲ってもらって、バスは出発した。 超高齢社会のほほえましい光景なのだが、間髪を入れずに発せられた運転手の濁声が、善意の押し売りに聞こえる。 バス停を早く出発したい気持ちはわかるが、高齢者が高齢者へ席を譲る少しスローな時間は、そっとバスを止めて見守っていてほしい。 |