中国では食物の農薬汚染が深刻だ。一般市民ですら、国内の農作物を警戒する傾向にある。中国国家、あるいは、国内メディアにとっては、隠蔽したい現実だ。しかし、一般に放送されているテレビ番組が、無意識にその国の現実を映し出してしまうことがある。 中国ではテレビ番組の内容が国のラジオ・テレビ総局(広電総局)の管理下に置かれ、広電総局が敷く放送倫理のラインから逸脱した内容を放送した番組につい ては『放送休止』や『番組終了』といった処分が下される。しかし、あまりにも現実が自然のまま抽出された場合、管理者は気づかない。逆説的に、その国の現 実を映し出してしまうことがあるのだ。 浙江省のグルメロケ番組、司会者3人が畑に向かった。 「なんと広い畑!」 畑で農作業をしている農夫を発見。 「これは何の収穫をしているのですか?」 「キャベツだよ。ほら、見てごらん。農薬を使ってないから虫食いがこんなにたくさんあるよ」 「ほんとだ!こんなに虫食いの穴が!(→カメラがキャベツの虫食いにズームイン)これは絶対に農薬を使っていない!」 別のシーン。リアカーで野菜を売っているところを司会者が突撃インタビュー。 「これは何を売っているんですか?」 「キャベツだよ。ほら、うちのは絶対農薬を使ってないよ(と言って、穴が開いたキャベツの葉を見せる)」 「わー、これは本当に農薬を使ってない」 レポーターの取材に対し、とっさに「農薬は使っていない」と口を揃える農家。年輩の農家、「仕込み」があったとは考えにくい。反射的に口にする姿、「農薬は使っていない」とアピールする姿は、中国に於ける農薬被害の深刻さの裏返しだろうか。 浙江の番組クルーが四川省に行き、蝉を食べるシーン。 女性司会者「蝉は食べたことがない。見た目もグロテスク?」と難色を示す。 男性ディレクター「9年間、樹木の内側でエキスを吸ってきた。外気に汚染されていない、天然そのもの」 椰子の飲み物についても、店のオーナーが 「この椰子ジュースは防腐剤が入っていない」とアピールするシーンもある。 番組は外国人観光客向けではなく、中国人スタッフが『中国人視聴者向けに』作ったものである。国内に向けても「農薬や添加物の汚染が無い」と強力にアピールする姿から、「他の農作物にはかなりの薬が使われているのだろう・・・」と、邪推せざるを得ない。 日本では、テレビで行う農作物のPRは、産地直送、自家農園栽培、有機栽培、味の美味しさであるが、中国では真っ先に「汚染されていない」というポイントが出てくる。無汚染の執拗なPRは外国人から見れば違和感があるが、中国人視聴者の間では習慣化しているようである。 【アジア支局:亜細亜渡】
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