中国国内で放送される番組、お見合い番組と並んで、ここ数年で潮流となっているのは「健康番組」だ。台上には司会者と医師(栄養学専門家)、ゲストにタレントを加え、体験談、健康上のアドバイスなどを混ぜながら進行していく。 日本にも同様の番組があるが、中国の健康番組の方が雰囲気が粛々としている・・・。 健康番組は、日本でも数年前まで大ブームを迎えていたが、ある番組のデータ改竄の発覚を機に下降線を辿った。『一つの食材を食べること』と『身体上の効 果』を具体的に実証するのは難しい。制作者は「効果があるはず」という前提で、実験を誘導していく。数週間?数ヶ月の実験を行った結果、「効果が見られな かった」では、実験の時間と製作費の無駄使い。「結論ありき」の誘導は起きる。或は、『都合の良い』データだけをピックアップせざるを得ない・・・。 中国の番組ディレクターは「ここ数年の『健康番組ブーム』は『経済』と関係あるのではないか」と話す。「国民全体が貧しくて、食のこと、健康のこと、を考 える余裕がなかった。あるものを腹一杯食べる、というので精一杯。しかし、経済が上昇し、国民の考え方にも余裕が出て来た。長生きしたい、病気にはなりた くない、健康でいたい、ということに向き合えるようになった」 北京テレビで毎日夕方に放送されている番組『養生ルーム』。 司会者が、専門家を迎え、健康についてのトークを1対1で進めていく。スタジオには北京の一般観覧客数十人が招待される。衛星を使い北京発で中国全土で放送されていて、スタジオ観覧の抽選は競争率が高いと言う。 ある日のトークテーマは『塩分と寿命の関係』について。 日本ならば、様々なデータが提示されるが、中国ではデータ提示は少なく、専門家(医師や栄養学教授)の主観や体験で圧倒していく。 「自分が見た患者2人は高血圧で、共に、塩分の撮り過ぎだった」 「この2人はどちらも中国東北地方出身で、東北地方は塩辛い食べものが多い」 裏付けは、数字ではない。大部分が専門家の主観と経験に依る。(逆に、数字の改竄が、日本の健康番組失墜に繋がったわけだが) 日本の番組では、「これはあくまでも実験の結果」「個人の感想です」という字幕を緩衝剤として置くが、中国では、専門家がずばり言いきる。 「塩分の撮り過ぎは、血管の老化に繋がり、寿命にも影響します」 言いきってしまう口調は、見ていての気持ち良さ、スッキリ感がある。 健康番組だけではない。全般的にどの番組も司会者や専門家がしっかりとした発言権を持っている。日本の場合は語尾に「と言われている」「とされている」などと、言葉上の『逃げ』を用意し、誰の意見なのかを曖昧にする習慣があるが、中国の場合、断定系で言葉を進めていく。 『養生ルーム』は殆どがVTR無しでトークのみのシンプルな作り。1回の放送時間はCMを含み1時間近いが、強いトーンのまま進行していくため、放送時間 が長くても視聴者は言葉に引き込まれる。人気番組として君臨しているのは、専門家と司会者が批判を恐れず、堂々と話題を繰り出していく言霊の強さにも由来 する。 【アジア支局:亜細亜渡】
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